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第59回『連戦連敗』(安藤忠雄著)

世界を相手にコンペを闘う

そして敗退の連続

建築家は何を学び、考えてきたのか


表参道ヒルズの設計などを手がけた有名な建築家である安藤忠雄さんが、
自身の「敗退の連続」をふりかえり、
その中で学び、考えてきたことを、
教鞭を執っている東大大学院での講義で語っている内容が書籍化されたものです。

しかし、かの有名な安藤さんが「連戦連敗」だったというのは
信じられない気持ちで読み進めてみると、
建築家たちが設計案を闘わせるコンペにおける厳しい競争や、
自分の理想と依頼主の要求とのギャップを埋める作業など見ていると、
大変厳しい業界なのだと痛感させられます。
場合によっては、理不尽な差別を受けて話を聞いてもらえないことすらあるのです。

さらに、もう一方では建築事務所の経営も執り行っていかなければならないという
数々の困難をくぐりぬけて、今の地位を築いていることが分かりました。
それはあたかも、シンクロナイズドスイミングのスイマーが
水上で見せる笑顔とは対照的に、水面下では必死の運動を行っているようでした。


これだけの名声を獲得してもなお、
数々のコンペに挑戦しては、敗退の屈辱感を次々と味わい続けているそうですが、
そのモチベーションはどこから沸いてくるのか?
その点が疑問で、何度もこの本を読んでみました。

特に現在は、公共事業の縮小など、
どう考えても建築業界には不利な状況に取り囲まれています。
それでもなお、なぜこれほど建築という仕事にこだわるのか?
そのモチベーションの源がどこにあるのか知りたかったのです。

最後まで読み進めてみて、「あとがき」にあるこの言葉で、
ようやく納得ができるようになりました。


「どれだけ力を尽くしたところで、大抵の場合は報われない。
 だが、挑戦は決して無駄ではなかったと思っている。」

「モノをつくる、新たな価値を構築するという行為の大前提が、
 この戦い、挑戦し続ける精神にあるように思う。」

「大抵の人間は、この苦難のときを耐え切れずに終わってしまう。
 しかし、ル・コルビュジエもカーンも、決して諦めなかった。
 妥協して生きるのではなく、戦って自らの思想を世に問うていく道を選んだ。
 与えられるのを待つのではなく、自ら仕事を作り出していこうとする、
 その勇気と行動力こそ、彼等が巨匠といわれる所以なのである。」


安藤さんは今にして東大の大学院で講義をするようになりましたが、
元々は高校卒業後、
驚くべきことにボクサーとしてファイトマネーを稼ぎ、
その資本を元手に世界各地を放浪し、独学で建築の勉強を行っていたという
信じられないようなキャリアを持っています。

この「あとがき」の中に、
ハングリーな安藤さんの核となっているものが読み取れるような気がしました。


ただ正直に言うと、建築家を志望する東大の大学院生向けの講義ですし、
この本の内容は専門的ですし、値段も2400円と高いです。
ですので、あまり安易にはおすすめしませんが、
「ものづくり」に携わる人の情熱に触れたいという方であれば、
一読に値する内容の本だと思います。

実はこの本は、2001年に初版で、その後14刷にまで達しています。
もちろん、東大の教科書になっているため売れ続けている
という事情もあるでしょうが、それだけでは14冊には達しないものなので、
多くの建築家のバイブルにもなっているのでしょう。

それだけ、安藤さん入魂の一冊とも言えるのだと思います。



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